悲し笑いの横顔
「へ?」
思わず私は振り返る。それも小さいころよくしてたみたいに、頭から後ろへ。
だけど、すぐにそうしたことを後悔した。
30代ぐらいとみられる男の人の逆さま顔が、私を覗いていたからだ。
「げっ!!」
あわてて体勢を取り直し、ブランコから飛び降りる。
彼と再び顔を合わせて、やっちゃったーと顔をしかめた。いうなれば、今の私の心情は彼氏にはじめてすっぴんを見せるときとおんなじ。
初対面で、さかさまの顔をいきなりみられるとか恥ずかしすぎるんだけど!
ただでさえ自信ない顔がもっと不細工に彼の眼に映ったはずだし…!
とはいえ、このまますたこら帰るわけにもいかないので、
「あ、あのー…」
邪念を払い、おそるおそる話しかけてきた人に声をかけた。
改めて見ると、先ほどは気づかなかったが彼は白いコックコートを身にまとっていた。
街灯が少ないため、顔立ちははっきりとは分からないが、顎がしゅっととがっていて髪は若干パーマをあてているのかくるくると波打って見える。
30代前半ってとこ…かな?んーでも、20代にも見えなくないような…
「ぷっ。」
首をかしげていると、いきなり噴き出す彼。
「ハハハっ」
「え?」
続けて彼は笑い始める。
な、何がおかしんだろう…?
「ごめんごめん、いきなり笑って。
ツボ遅いってよく言われてるから自覚済みなんだけどさ。」
「は、はぁ…」
「まぁでも、今のは君が悪いよね。だってこんな遅く、ブランコ乗ってんだもん。
お化けかと勘違いしちゃった。」
だ、誰がお化けだ、生きてるわ。
「声かけたら頭ぐいんって後ろ向かせるし、あーおかし。」
ってまだ笑ってるし、この人。
「…ちょっと、笑いすぎじゃないですか。
人の顔のことで。」
「ごめんごめん。」
そう言いながらも、変わらず彼はくしゃっと表情に無数のしわを浮かべて、また無邪気に破顔している。
謝る気あるの、この人。
じろっと私は見上げた。