悲し笑いの横顔

「へ?」
 思わず私は振り返る。それも小さいころよくしてたみたいに、頭から後ろへ。
だけど、すぐにそうしたことを後悔した。

30代ぐらいとみられる男の人の逆さま顔が、私を覗いていたからだ。

「げっ!!」
 あわてて体勢を取り直し、ブランコから飛び降りる。

彼と再び顔を合わせて、やっちゃったーと顔をしかめた。いうなれば、今の私の心情は彼氏にはじめてすっぴんを見せるときとおんなじ。

初対面で、さかさまの顔をいきなりみられるとか恥ずかしすぎるんだけど!
ただでさえ自信ない顔がもっと不細工に彼の眼に映ったはずだし…!

とはいえ、このまますたこら帰るわけにもいかないので、

「あ、あのー…」
 邪念を払い、おそるおそる話しかけてきた人に声をかけた。


 改めて見ると、先ほどは気づかなかったが彼は白いコックコートを身にまとっていた。

街灯が少ないため、顔立ちははっきりとは分からないが、顎がしゅっととがっていて髪は若干パーマをあてているのかくるくると波打って見える。

30代前半ってとこ…かな?んーでも、20代にも見えなくないような…

「ぷっ。」
 首をかしげていると、いきなり噴き出す彼。

「ハハハっ」

「え?」
 続けて彼は笑い始める。

な、何がおかしんだろう…?

「ごめんごめん、いきなり笑って。
ツボ遅いってよく言われてるから自覚済みなんだけどさ。」

「は、はぁ…」

「まぁでも、今のは君が悪いよね。だってこんな遅く、ブランコ乗ってんだもん。
お化けかと勘違いしちゃった。」
 だ、誰がお化けだ、生きてるわ。

「声かけたら頭ぐいんって後ろ向かせるし、あーおかし。」
 ってまだ笑ってるし、この人。

「…ちょっと、笑いすぎじゃないですか。
人の顔のことで。」

「ごめんごめん。」
 そう言いながらも、変わらず彼はくしゃっと表情に無数のしわを浮かべて、また無邪気に破顔している。

謝る気あるの、この人。
じろっと私は見上げた。

< 5 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop