センセイの好きなもの
巧先生は私の顎を掴んで少し上に向かせてから、そっと唇にキスをしてくれた。
触れるだけの優しいキス。


唇が離れると途端に恥ずかしさが込み上げてきて、顔が熱くなってくるのが分かる。

そんな私を見て巧先生はギュッと抱きしめてくれた。



「あっ、忘れてた!」


耳元で大声を出されて、頭がキーンとしてしまう。巧先生はコレさえなければね…。



「急に大声出さないでください」



「ツム、大事なこと言うの忘れてた」


…大事なこと?
それはさっき言ってくれたことよりも?

想像もつかなくて首をひねっていると、巧先生は私の肩をぽんと叩いた。



「よく聞いてくれ。明日、弁当作ってほしいんだけど」


「…弁当?お弁当のことですか?」


「そ。明日はめちゃくちゃ忙しいんだよ、俺。朝から裁判所だろ、それ終わったらすぐ紗絵の事務所行かなきゃいけないんだよ。メシ食うヒマもないと思うからさ、ツムに頼もうと思ってて忘れてた。…ん?何ぶんむくれてんだよ」



ぶんむくれるに決まってる。

大事なこと、ってお弁当かい!
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