恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
「ころしてやる」


殺意というには、あまりにあっさりと幾郎が口にする。


「おまえも大事なものをなくせ。罪は命で購(あがな)え」


幾郎が遮二無二、私に飛び掛かってきた。
逃げ切れず、私はアスファルトに引き倒される。

腰と肩を打ちつけた。痛みに一瞬呼吸が詰まる。

でも、冷静に分析する暇はない。

私のふくらはぎをつかみ、まるでゾンビのように幾郎が這い上がってくる。
マウントポジションをとられる前に逃げ出さなければと思うけれど、正気を失った男は尋常じゃない力をしていた。

このままじゃ、本当に殺される。


その時、幾郎の身体が浮き上がった。
背は高いけれど、細身の幾郎の体躯は私の上から持ち上げられ、路地の自販機に叩きつけられた。


唸るような悲鳴が聞こえる。


「どこのどちら様か知らないですけど、うちの同僚に殺してやるとは物騒じゃないですか」
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