恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
寛の腕がぎりっと幾朗の腕を締め上げた。
有段者で今でも道場通いをしている寛に、ひょろ長いだけの幾朗が敵うはずがない。


「ほら、早く選んで」


冷酷にも響く声音で寛が言う。


「後ろ暗いんだから、警察も病院も困るんだろ?とっとと逃げ帰ればいいのに」


「離せっ!俺に触るなぁっ!」


すでに心が折れているのか、幾郎は暴れることもせず、悲鳴をあげる。
寛が幾郎の上から退き、その身体を引きずり起こす。


「二度と彼女の前に姿を見せるな。そん時は肩くらいじゃ済まねぇぞ」


そう言って突き飛ばした。
幾郎が転がるように路地から飛び出していく。


私はその背が見えなくなり、ようやく一呼吸ついた。


「大丈夫だったか?」


寛が近寄ってくる。
まだ座り込んでいた私を助け起こす。
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