恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
金曜に寛の辞令が出た。


伊川寛
香港支社への出向を命じる



紙切れ一枚で寛は私から離れていく。

寛本人は、恐らく私と同じくらいのタイミングで聞いていたのかもしれない。
金曜の午後、スマホに連絡がきた。


『今夜、少しでいいから時間を取ってほしい』


断ることはできない。

私は、いつも行ったあの赤提灯を指定して、返信した。




赤提灯にやってくると店主のおじちゃんが何も言わずにビールを出してくれた。


「ご無沙汰してしまってすみません」


「連れの大将がしょっちゅう来てくれるよ」


連れの大将、……寛のことだ。
そうか、ひとりでいつも来ていたんだ。

胸がぎゅっとなる。

寛がいなくなる。
それだけはダメだと思っていた。
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