恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
寛がゆらりと立ち上がった。

その表情を見て、私は凍る。
寛はすでに諦めた表情をしていたからだ。


「よく、わかった」


「……な……にが?」


「おまえが大事なのは俺じゃないよ。
おまえが大事なのは自分自身」


「え……?」


私はまばたきを忘れて、寛を見つめる。
寛が自嘲の笑みを浮かべた。


「それじゃ、俺は勝てないよ。
プロポーズは撤回する。色々、悪かった」


言い残すと、寛はひとり店を出て行った。


残された私は動けなかった。



私が大事なのは、寛との関係だったはず。
清らかで、平和で、友愛に満ちた安心できる住処。


私が大事なのは、私自身。
私が大事なのは、私?


私は温くなっていくビールを眺め、長い間そうしていた。






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