恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
「じゃあな、琴」


寛は通いなれた赤提灯には入らず、駅に向かい歩き出す。


「じゃあね、寛」


私はその背に手を振る。


そうして、私たちはお別れをした。





寛の背が雑踏に見えなくなり、私はひとり赤提灯に入った。

おじちゃんは私の涙を見ただろうけれど、何も言わず、いつもの生ビールを出してくれた。


「あのね、今日は送別会だったの」


私はやけに陽気に言った。


「しばらくは、私だけだけど、このお店は絶対通い続けるからね」


私の空元気なんてバレバレだ。
おじちゃんはやはり何も言わず、味噌煮込みを私の前に置いた。

大好きなモツの味噌煮込みは、ほろほろに柔らかく、味が染みていて、
とにかく泣けてしょうがなかった。







< 162 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop