恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
私は身体の角度を変え、寛を支えやすくすると、起こさないように黙った。

寛は寝息をたてている。


あたたかい身体。
寛の匂い。

優しい寝息と彼の鼓動。


私は奇妙な充足を感じた。


これでいい。

そう思った。

恋人はいたけれど、私にとって寛はすでに大事な唯一になっていた。
寛もまた、大学から付き合う彼女がいたけれど、逆の立場であれば、私を眠らせてくれただろう。
それほどに私たちの信頼関係はできあがっていた。


なんのやましさもない。

私たちは兄弟のように、並んで存在することが自然だった。
互いがかけがえのないものだと、わかっていた。

それは暗黙の了解だ。
私たちはこの時、一番接近したけれど、それは私たちには平穏で幸せな寄り添いだった。




あれほどの清らかな友情を、今の私たちはどこかになくしてしまった。



< 56 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop