恋よりもっと。~トモダチ以上カレシ未満~
だとしたら、なんて女々しいんだろう。

一度寝たからって、寛は私のものになったわけじゃない。


そもそも、私は寝た事実を無かったことにしようとしているのに。

当の私が一番、固執している。


もしかしたら、寛の方は、本当に忘れてくれているかもしれないのに。

あの夜の出来事を。



「上杉、上杉」


声をかけられ、私ははっと現実に立ち返った。

越谷さんが私の顔を覗き込んでいる。


「目ぇ死んでたよ。疲れてる?」


越谷さんは細面の顔に微笑を浮かべた。
三つ上の越谷さんは歌舞伎の女形のようなしっとりとした雰囲気のある男性だ。

実際、社内ではゲイ疑惑があるけれど、私は彼の静かで女性的な雰囲気が好きだった。

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