冷酷な彼は孤独な獣医
あんなに悲しかったのに、

あんなにショックだったのに、

あんなに傷付いたのに、

こんな事言われたら、こんな風に頭下げられたら、

全部消えてなくなってしまう。







ずるいよ……龍………








「龍のバカ……」


あたしの目からは涙が流れ出した。


「悪かった」


龍はあたしの涙を指でそっと拭く。


「どうしてあたしの事を信じてくれなかったのよ……」


本当はもういいのに、龍の気持ちは十分に伝わったのに……


「ごめん」


「あたし、いっぱい傷付いたんだよ!」


龍が優しいから……


「本当に……ごめん」


「龍にだけは、信じて欲しかったんだよ!」


あたしの方こそごめん。

わざとこんな事言っている。




今だけは、龍はあたしの事だけを思っていて、

あたしの事だけを見てくれている。


こんな時間を少しでも長く過ごしたくて……






ごめんね龍……もう少しだけ、わがままさせて。
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