短編集‥*.°


教室に向かって、
足音を荒げながら歩いていた。


頭に浮かぶのは、
二度と見たくもないあいつの顔。


…笑っている。


茶髪をポニーテールにして、ピンク色の
リボンを結んで。


…なにが、『あんたはアタシとは
吊り合わない』よ。


そりゃあさ、まだ会って
二日目くらいなら、別にここまで
腹が立つこともない。


…でも。


あいつがオカッパからロングになるまで
ずっと一緒に居て、黒髪から茶髪になる
その日も一緒に過ごしていたのに。


…どうして、
あんなこと言ったんだろう。


仲が良かったのに。


凄く、楽しかったのに。


「…あ〜…」


ため息がこぼれた。


親友だと思っていたのは、わたしだけ、
だったのかな。


…一番、仲が良かったのにな。


…なんとも言えない気持ちを抱えて
足を進めていると、教室の扉が
見えてきた。


「…」


少しだけ足を速めると、
夕陽の差し込む廊下を歩いた。


扉に手をかけて引くと、
ガラガラと音がして教室の風景が覗く。


その中で、
自分の席に向かって歩いていく。


誰もいない教室は、校庭から響く声しか
聞こえなくて、やけに静かだった。


自分の机の中に、手を伸ばす。

紙の感触が伝わってくる。


数学のノートを教室に忘れたから、
わざわざ取りにきたんだ。


置き勉は、わたしの性格に反する。


無駄に几帳面な、わたしの性格。


ノートを持ったまま、
また、元きた廊下を引き返した。


夕陽が、街を紅に染めていた。


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