短編集‥*.°
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
暗い森の中を、一人の少女が駆けていく。
所々から、フクロウの鳴き声が聞こえてくる。
木々の囁く声。
満月が薄い雲に霞む、朧夜。
辺りには霧が深く漂い、少女の身体に纏わり付いた。
木の葉を踏みしめる音。
息を切らす声。
少女の出す全ての音が、
どこか歪んでいる。
目を見開いた少女の顔に、迷いはない。
森の中で、何かを探しながら進む。
黒いローブを翻して。
「…急がないと」
少女は一人、呟いた。
少女がこの森へ来たのは、
ある目的を果たすため――。
少女には長年、片想いをしている少年がいた。
二人は幼馴染で、何をするのも一緒。
少女は少年が好きだった。
愛していた。
しかし、
少年が少女を愛することはなかった。
少年はいつも、
少女ではない誰かを愛した。
どれだけ少女が思いを伝えても軽く受け流し、その度に『お前は幼馴染だから、ずっと、友達として――』そう言った。
少女は悲しく、そして悔しかった。
少年が出会って間もない誰かを愛し、幼い頃から共に過ごしてきた自分を愛してくれないことが、許せなかった。
それでも少女は少年が好きだった。
一度でもいいから、
愛されたいと、願っていた。