短編集‥*.°


なぜ謝るのかと問うと、少年は唇を噛み締めながら、言葉を紡いでいった。


『誰よりもお前が大切だったのに、抱いてしまった。愛もないのに、軽い気持ちでやってしまった。

お前の初めてを、奪ってしまった。
本当に、ごめん』


少年は後悔していた。

幼馴染の少女と繋がったこと。

大切な、家族のような少女の想いを、軽く扱ってしまったことを。


幼馴染だからこそ、俺は君を愛さないのだと、言った。


少女は哀しかった。

幼馴染じゃなければよかったと、いつも
思っていた。

少女以外の女性のように、少年に愛される存在として、ずっと一緒に痛かった。


少女は、目から溢れる幾筋もの涙を拭うこともせず、目の前の少年の行為を眺めていた。




「あ…!」


あれから、どれほどの時間が経ったか。

気づいた時には、遅かった。

東の空がゆっくりと白み始める、とともに月ノ花から光が消え失せていく。

徐々に、しおれていく。


「――待って!ねぇ、待ってよ!…お願いだから――」


月ノ花は眩いばかりの光を断末魔とばかりに放ち、そして、跡形もなく消えた。


「待ってよ…!」


夜が明け、朧夜を越えて陽が昇る。

少女は唇を力一杯に、噛んだ。

月ノ花は、もう少女の前には現れない。


月ノ花は、一生に一度しか、見つけることはできない。


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