短編集‥*.°


黒い瞳の上にシルバーフレームの眼鏡をかけた顔は、中学校のアルバムの中の彼と、あまり変わらない。



「久しぶりです。

そのカンザシ――持っていてくれたんですね」



岩野はそう言って、美代の髪で静かに光るカンザシに目をやった。


美代がカンザシに手を触れた。



「岩野さん、あんまり変わっていませんね」


「そこのベンチにでも座って、少し話しませんか」


岩野が、美代を、すぐそこに見える木のベンチへと誘った。



「良いですよ」



美代は、岩野の隣に座った。


暗闇の中で際立つ美代の振り袖が、たまに岩野の左腕に当たる。



「あの日も、月が綺麗でしたね」


「そうですね」



美代は岩野の言葉に一言 返し、話の先を促した。



「初めてのデートで、二人とも緊張していましたっけ」


「はい…

何をすれば良いのか、解らなくて」



二人は、あの日――。


夏空の下での、浴衣でのデートを思い出し、互いに苦笑した。



「なぜか、固い敬語になったり」


「お金をどちらが出すか、相談したり」


「割り勘をして、一緒に綿菓子を食べましたね」


「二匹もらった金魚を、分けたりもしました」



岩野は苦い笑いを浮かべたまま、頭を掻いた。



「今 思えば、男らしく奢ってやれば良かったんですけどね。

綿菓子くらい」


「あら」



美代が再び、髪に煌めくカンザシに触れた。


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