短編集‥*.°
「でも、カンザシをくれたじゃないですか。
大切にしていますよ?」
「それは良かったです…
何でボクは、山崎さんと別れたんでしたっけ…」
「すれ違いですね。
岩野さんは部活、私は友達。
…あの頃はまだまだ若かったと、反省しています」
「あまり昔の事じゃないでしょう」
美代は、アハハ、と笑った。
岩野が、けして遠くはない思い出を懐かしむように、夜空を見上げた。
星がこうこうと瞬く、満月の夜。
「何で別れたのか…
ボクは後悔しましたよ」
「ま、それも懐かしい思い出です」
美代は微笑みながら、岩野の方を見た。
「きっとね。
言葉足らずだったんです。
そして、二人とも愛し方を、まだ知っていなくて。
…でも、不器用な愛は感じていました」
カンザシを抜くと、美代はそれを、黄金色の月にかざした。
カンザシがすぅ、と透き通り、美しいヒスイ色に染まる。
***
二人はしばらく、月を見ていた。
淡い記憶の片隅にあるカンザシ。
「…じゃあ、私は戻りますね。
岩野さんも?」
美代はカンザシを髪に刺し、立ち上がると岩野の方を向いた。
岩野も、ベンチから立つ。
「いや、ボクはもう帰ります」
カンザシを一秒間 見つめ、岩野は美代の振り袖姿に目を移した。