彼とほんとの私
揺れる心
翌日、まぶたが腫れていた。昨日、あんなに泣いたからだ。


私はまだ両親の言葉が信じられないでいた。


物心がついた時からずっと一緒に暮らしていたし、自分も家族と血がつながっていないなんて思ったことはない。


厳しいが尊敬していた父。


いつも相談にのってくれた母。


両親の愛情を一身に受けて育った私。


周りの大人たちも、本当の親子のように接していた。血がつながっていない、そんな素振りを見せた人はひとりもいなかった。親戚も近所の人も…。


何度考えても、両親の子どもじゃないっていう確証がない。私は一体、誰の子どもなの?信じられる人は誰もいないの?


今回、事故に遭わなければ、ずっと一生黙っているつもりだったのだろうか。でも、私が結婚して子どもが授かったら、いずれは分かる話だし。


悪い夢でもみてるようだ…。


「斉藤さん、検温の時間ですよ。朝食、ちゃんと食べないと駄目ですよ」


若い看護師が、血圧を計りながら言う。


朝食は、私の大好きなフレンチトーストが、食べたかった。母がよく作ってくれたフレンチトースト。


でも、もう前のように食卓を囲むことはできないな。両親の前で笑うことさえ難しいと感じる。


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