彼とほんとの私
看護師が去った後、考え疲れて目をつむっていたら、少し眠たくなってきた。夕べは眠りが浅かったのかな…。






「ねえ、キスしていい?」…「きみが好きだよ。こっちを向いて好きっていってくれ」…「きみの笑顔がみたい」…






ああ、夢か。忘れていたと思っていた智史の夢をみたんだ。


もう、彼に会うこともないだろうな。それよりも、自分には解決しなければいけない問題がある。


病室の戸が開き、誰かが入ってくる気配がした。


「実の親子じゃないなんて、どうしたらいいんだろう」


ため息とともにつぶやくと、聞き覚えのある声がした。


「今日も、浮かない顔をしてるね」


「倉田智史…」


「あ、名前覚えてくれたんだ。嬉しいよ」


屈託のない笑顔を向けているのは、間違いなく智史だ。夢でもないし、倉田先生でもない。


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