カメカミ幸福論
私はポカンとして同期で出世頭の男を見上げる。繁華街の照明に照らされて立つ小暮は、営業職ならではのやたらと爽やかな笑顔でこちらを見ていた。
「え、え?何であんたが?何も食べてないじゃないのよ。そんなことされたら困る―――――――」
焦って言いかける私の言葉を遮って、美紀ちゃんがそれじゃあ失礼します、と頭を下げる。それに小暮がお疲れ様、と返答していた。
おいおい、無視すんなよ君たち。
私は腕を組んで、それから深いため息をついた。
「・・・何だかよく判らないけど、もういいわ、面倒くさい。じゃあご馳走様。ありがとう小暮。ついでに美紀ちゃんを送ってってあげてよね」
うん?と小暮と美紀ちゃんが振り返った。それから何となく顔を合わせて、同じタイミングで私を見る。・・・何この感覚。この二人、実は双子か何かなの?酔っ払った上に計画と違うことが色々起きて混乱した頭で、私はそんなことを思っていた。
「私は送ってもらう必要ないですよ。危ないのは亀山さんでしょ?」
「カメ足元ふらついてるよな~」
「それにさっき、気になること聞きましたし。ストーカーとか、危ないですよ!」
「そうだぞ、カメ!一人で帰すわけにはいかないな」
ガックリ。そう言えば、まだ否定出来てなかった。
「・・・私は大丈夫ですから。ストーカーなんていないし、本当安心してちょうだい」
唸るように言って、私は片手で二人を追い払うようにヒラヒラさせる。もういいから早く行きたまえ。万が一送り狼になったとしても、小暮なら無体なことはしなさそうだし安心。それに美紀ちゃんは小暮が好きみたいだし―――――――・・・
そんなことを考えていた私の耳に、美紀ちゃんの明るい声が突き刺さった。
「私、彼が迎えに来てくれるんで大丈夫です。亀山さんが送って貰って下さいよ、でないと私心配で~」