カメカミ幸福論


 ―――――――――あん?

 情報が脳みそに到達するのにゆうに10秒はかかったに違いない。私はしばらくぽかんとして、それから唾飛ばす勢いで彼女に叫んだ。

「――――――――彼っ!?か~れ~!?あれ、美紀ちゃんたらいつの間に彼氏出来たの!だってこの前までいないって―――――――」

「ああ、ちょっと違うんですよ。彼氏ではないんです」

 ニコニコと微笑んだままで美紀ちゃんはさらりと言った。

「は?彼氏じゃない?」

「ええ、正しくは婚約者であって、つきあったりはしてませんから」

 だから彼氏はいません、そう続ける美紀ちゃんを唖然として見詰める。

「婚約者・・・」

「はい。では、、亀山さん、また明日!小暮課長、ありがとうございました!」

「おう~」

 もう一度頭を下げて、出来る後輩は踵を返して去っていく。私はその背中を呆然と眺めたままだった。・・・婚約者・・・だから、彼氏ではないって・・・・まあ、そりゃ確かにそうかもだけど。つか・・・つーか、婚約者がいたんかいなっ!!

「あらまー・・・」

 口の中で小さく呟いた。・・・やってくれるね、美紀ちゃんたら。

 真夏の夜、繁華街の真ん中で、騒々しくて明るくて喧しくて人がたくさんいた。その夜だと言うのに暑い空気の中に突っ立って、私はぼんやりと小暮を振り返る。

 ・・・ああ、可哀想じゃん、こいつ。ご馳走までして彼女に彼氏どころか婚約者がいるなんて―――――――――・・・


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