カメカミ幸福論
そそくさと階段に回りこんで、小暮の顔もみずに事務所まで上がる。
後ろから小暮が、またメールする!って叫んでいたような気がするけれど、それはパンプスを階段にたたきつける音で聞こえなかったフリをした。
そんな朝だったのだ。
それが、事務所に漸く入ったと思ったら、今度は美紀ちゃんの攻撃がきたのだった。
亀山さ~ん!!と叫んで。
おはようございます!!と叫んで。
キラキラしたお目目で見詰めてくる。
その大きな瞳の中には、「昨日はどうでした?」「まさかお持ち帰りとかされてないですか?」「話が聞きたいなあ!」「教えて下さい」「ちょっとだけでいいから~!!」的な言葉たちが浮かんでは消えていったのだ。
ランチまで無視することにして、私は用もないのにトイレにいく羽目になったというわけ。
あーあ・・・。
私の毎日は、こうして確実に変化を遂げていたのだ。
まず、会社がただの暇つぶしに行く場所ではなくなってしまった。今では新入社員から3年前までのようにとはいかないが、一応まともに働く社員にはなっていたし、それで「全く使えない」私を無視することに決めていたらしい課長から「使える駒」への昇格認定されてしまったらしく、それなりに重要な仕事が回されてしまうようになった。
だから勿論、のんびりしている暇などなくなったのだ。しばらくの怠慢な社員だったせいですっかり忘れてしまっていた要領や能率を何とか思い出して処理しないと、この世で最も嫌いな残業になってしまうと気がついたからだった。
私ってば、必死よ。