カメカミ幸福論


「悪意がある仕草だとは判ったぞ」

「気のせいよ」

「とにかく、ご飯は俺の分も用意してくれ。人間の男にするように。いいか?」

 その言い方には断固とした決意が感じられたので、私はムスッとしたままで言ったのだった。なら宙に浮かぶのやめてくれない、って。人間の男は、むやみやたらに浮かんだりしないんだぜ。

 とにかく、頭がイライラしたり胸がざわざわするのを避けるために私はこの現実を受け入れて、それから無視することにしたのだ。つまりヤツが一緒にいることには目を瞑るが、会話はしないぞ!って。

 だけどすぐに無理だと判った。

 ああ、私は非力な女・・・。

 既に2ヶ月も一緒にいて人間界に慣れたらしいダンは、今では質問攻めなどないし、普通にしていれば中々面白い会話をする相手だったのだ。

 ちょっと変わった視点で物事を見る。その話を聞くのが楽しかった。

 だから私は、いつの間にやらダンが部屋にいて生活をするのを受け入れてしまっていた。あの宣言から1週間も経つ頃には、キラキラと光り輝くやたらと美形の男神の姿も、当たり前の風景として感じていたのだった。

 この狭い一人暮らしの2DKでは、どこにいてもヤツの姿が目に入る。

 それを邪魔だわ、とか、ああいたんだ、とか一々思わなくなるのが早かった。その事実に私はちょっと驚いて額を叩いてみたりした。

 やばいわよ、私って。





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