カメカミ幸福論
 

 昨日など、夕食の後シャワーを浴びて出てきた私が顔にパックをはっているのを見て、ダンは興奮してこういったのだ。

「ムツミ、俺にも俺にも~!」

 私はヤツのシミ一つないツヤツヤでキレーな顔をじいいっと見詰めて、あんたには必要ないでしょうが、と冷たく言った。毛穴のけの字も見えないぞ。

 するとダンはふんぞり返ってこう言った。お前と同じことするって言っただろ~って。大体元々美しいものに更に磨きをかけることの、何が悪い!って。

「あっそ・・・」

 パックする神。ちょっと面白いかも、そう思って、私はそれ以上抵抗も反抗もせずに、ダンにも顔パックを張ってやったのだ。化粧水でひたひたになったヤツを、べちゃっ!と。

「おお~」

 そう言って佇むダンの姿は滑稽だった。私は床の上を転がってゲラゲラと笑う。ダンはその長い髪をポニーテールにして、ヘアバンドで止め、白いパックを顔につけてご満悦だった。私に笑われてることは気にならなかったらしい。実際自分でも鏡を見て笑っていたほどだ。

「あはははは!マヌケだわ~!」

「いいんだってば、これで俺はピチピチになるんだろ~?」

「あはははは!」

 あんなに笑ったのは久しぶりだったな。お腹が痛くなるまで笑うなんて。そんなことを思い出しながら、私はビールをゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んで、寝そべるダンを足先でツンツンと蹴る。

「こら、止めろ、ムツミ」

 女性ファッション誌を興味深げに読みながら、ダンがむっとした声で言った。


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