カメカミ幸福論
「ねえねえ、チーズ取ってよチーズ。冷蔵庫の中にあるからさ」
「・・・神を使うな」
「あんた食費も払ってないのに食事作ってやってるでしょ、私が。冷蔵庫に近い方なんだから取るくらいいいでしょう~。チーズが食べたい~」
「くうう、ワガママだぞムツミ~!」
「チーズ、チーズ」
ダンは文句を言いながら立ち上がる。どうやら歩いて台所まで行く気らしい。私はちょっと意外に思って、取り寄せないの?と聞いた。だってこいつが一瞬で遠方の物を取り寄せるところを何度も見ているのだ。それが出来るのが判っているから頼んだのに、そう思って。
ダンはサラリと優雅に立ち上がって台所まで行きながら答えた。
「俺はここに住む間は人間のようにすると決めたんだ。浮かんでないだろ~最近」
・・・おお、確かに!
私はグラスを置いてちょっと手を叩く。本当だ、よく考えたら、ダンはこの部屋にいる間空中を浮遊しなくなっている!前は天井近くでふわふわ浮いていたけれど、一緒に住むと宣言してからはこの部屋では寝そべっている姿ばかりだ。
会社がある間は浮かんで移動していたけれど、今はお盆休みで既に家にこもって3日目だ。浮いてないじゃん、こいつ!
「・・・何で?便利な力があるのにさ」
チーズをもってぺたぺたとやってくるダンを見上げてそう聞いた。するとヤツはにやりと笑って、目元を細める。
「同棲している人間の男のようだろう?これでムツミが俺に惚れたら、そのまま天上世界へお持ち帰り~」
・・・何だ、それ。私は一気に疲れて肩を落としながらダラダラと言った。