カメカミ幸福論
楽しかったひと時を思って、私は最近、どれだけ孤独だったかを思い知ったからだった。
今までだって全部一人でやってきたけど、それを何とも思ってなかったし、思わないようにもしていた。でも多量のアルコールは今晩の私の理性を破壊してしまったらしい。
いつになく素直な心持で、私は暗い夜の中、賑やかな繁華街の喧騒に包まれて立っていた。
回りが騒がしければ騒がしいほど、自分の孤独が強調される感じがした。
ここでこれから小暮とも別れて。
それから、あの部屋に一人で帰って――――――――――・・・
「・・・カメ?」
彼の言葉のトーンが変わった。相変わらず私は何も言えないで、ただ困ったように小暮を見上げる。お礼を言って、帰らなきゃ。そう判ってるけど足は動かずに、口はありがとうの一言が言えなかった。
「――――――・・・」
口を開ける。だけど言葉が出ない。
今夜はありがとう、かなり楽しくて、ご飯も美味しかった。ほんと、ありがと。じゃあまた明日ね、あんたも気をつけて帰って。何度も頭の中で繰り返す、今口に出すべき言葉たち。
だけど、出てこない。
騒がしい繁華街の、一つの居酒屋の前。言葉をなくして佇む私に、通行人の肩がぶつかる。
「うわ!」
「・・・おっと」
よろけた私を軽く右手で受け止めて、小暮が繁華街の出口を指して言った。
「ここは危ないから」
ちょっと~・・・何の為に口があるのよ!自分にそう突っ込むけど、やっぱり声が出てこなかった。さっきまであんなに笑ってたのに。さっきまで、あんなに・・・楽しんでたのに。