カメカミ幸福論


 楽しかったひと時を思って、私は最近、どれだけ孤独だったかを思い知ったからだった。

 今までだって全部一人でやってきたけど、それを何とも思ってなかったし、思わないようにもしていた。でも多量のアルコールは今晩の私の理性を破壊してしまったらしい。

 いつになく素直な心持で、私は暗い夜の中、賑やかな繁華街の喧騒に包まれて立っていた。

 回りが騒がしければ騒がしいほど、自分の孤独が強調される感じがした。

 ここでこれから小暮とも別れて。

 それから、あの部屋に一人で帰って――――――――――・・・


「・・・カメ?」

 彼の言葉のトーンが変わった。相変わらず私は何も言えないで、ただ困ったように小暮を見上げる。お礼を言って、帰らなきゃ。そう判ってるけど足は動かずに、口はありがとうの一言が言えなかった。

「――――――・・・」

 口を開ける。だけど言葉が出ない。

 今夜はありがとう、かなり楽しくて、ご飯も美味しかった。ほんと、ありがと。じゃあまた明日ね、あんたも気をつけて帰って。何度も頭の中で繰り返す、今口に出すべき言葉たち。

 だけど、出てこない。

 騒がしい繁華街の、一つの居酒屋の前。言葉をなくして佇む私に、通行人の肩がぶつかる。

「うわ!」

「・・・おっと」

 よろけた私を軽く右手で受け止めて、小暮が繁華街の出口を指して言った。

「ここは危ないから」

 ちょっと~・・・何の為に口があるのよ!自分にそう突っ込むけど、やっぱり声が出てこなかった。さっきまであんなに笑ってたのに。さっきまで、あんなに・・・楽しんでたのに。


< 182 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop