カメカミ幸福論
ダンが私に顔を向ける。その表情は、穏やかだった。多分、私も同じように―――――――――
私は目を細めて口角を上げる。そして、ゆっくりと言った。
今までは人生なんて、「こんなもの」だと思ってたのよ。
戦争だって大きな病気だって私は知らない。世界には凄く悲惨なこともたくさんあるって知識はあったけれど、とりあえず私には関係ない。だから、自分だけがとにかく平和であれば、退屈だろうが何だろうが構わないって。
ダンはじっと私を見ている。その不思議な色の瞳の中には私がうつり、それは笑顔だった。
「それが今までの人生論というか、私なりの幸福論だったのよ。人のことも、自分のことも気にしない。それが一番面倒臭くないし、平和で大事だって」
だけど。
その私が、変わってしまったのだ。
ダンに会って、根本から。
「あんたが来て、私の周りはすごく騒がしくなった。人間関係も否応なく広がって、色んな人と喋ったり、仕事をしてみたり・・・なんか、必死だったわよね、あんたが煩くて。しかも、人間同士みたいには簡単に離れられないっていうどうしようもない存在で」
「ちょっとまて。侮辱するなら―――――――――」
ダンがむっとした顔で口を挟む。私はそれにしれっと返した。どこが侮辱なのよって、ちゃんと聞きなさいよって。・・・まあ、褒めてはいなかったけどさ。
「だけどその騒がしい人間関係の中にいると・・・思ったより、心地良いって判ったわ」