カメカミ幸福論
「そうか、それは悪かった。珍しくて、つい~」
「ついじゃねーよ!あんた邪魔しないって言ったわよね!?なら黙って観察だけしてろボケ神~!!」
ぴくっとヤツの眉が動いた。私はハッとして口を片手で押さえる。
「・・・ボケ神?」
「いえいえいえいえいえいえ、ちょっと本音が出ちゃっただけよ。気にしちゃ駄目。ね、それくらい神様なら笑い飛ばせるでしょ、ほら、ちっぽけなたかが人間風情が言う言葉くらい」
今ここで言葉を失うと、マジで仕事も失いそうだ。私はそう思って早口でまくし立てる。ダンがそれについて考えている間にさっさと自席に戻ることにした。
あぶねー。やだわ、つい正直に。ちょっとは気をつけなきゃ。
そう思って小走りに廊下を戻っていると、角のところで人とぶつかってしまった。
「きゃあ!」
「あ、ごめんなさい」
反射的に謝ると、ぶつかった相手は苛立たしそうな顔で私をきっと見た。
小顔に丁寧に巻いた髪、ナチュラルに見えるが多分相当時間がかかっている化粧。アジアンビューティーなその顔を、怒りの表情に歪めている人。
・・・ああ、この人、派遣できている・・・ええと、名前なんだっけ?
私がそう考えていると、その名前が思い出せない彼女が嫌そうな口調で言った。
「亀山さん、仕事放り出して何してるんですか?それに、会社の廊下は走らないで下さい!」
・・・おお、攻撃的。肩をすくめたいのを我慢して、私は淡々と返事する。