カメカミ幸福論


「はい、ごめんなさい」

 ふん、と嫌そうにそっぽを向いて、彼女は歩き出す。そのついでに肩をぶつけてきた。私は思わずよろけて壁に軽くぶつかる。

「あ、ごめんなさ~い」

 敵意丸出しだった。オマケに去り際に「どこにいても邪魔なんだから」と呟いたのも聞き逃さなかった。まあわざと聞こえるように言ったのだろう。

 後ろからまたダンが口を出す。

「今のは、あの女が悪いのではないのか?」

「お黙り」

 私はお局様として有名だが、使えない、覇気のない、お局様として有名だ。派遣された優秀な女の子に嫌味をぶつけられることはよくあることだった。

 一度など、面と向かって言われたこともある。あたしの方があなたなんかよりよっぽどまともに働いている、なのにあなたは正社員なんて――――――――

 因みに、私はその時「知るかよ」と答えた。そんなこと、私の知ったこっちゃない。普段嫌味を言われても言い返さず、意地悪などもしないお局の私がそう言ったので、その時の派遣さんは顔を真っ赤にしていた。

 確かあの時は、うちのデキる後輩、美紀ちゃんがどこからともなく現れて、「働かずに派遣先の人間を見下す発言している人の契約など更新しませんよ!」とその子を叱り、ついでに私にも「しっかりしてください!」と言ったのだった。

 立ち去る派遣の子の背中を見ながら、私はあーあ、とため息をつく。

 嫌なことまで思い出しちゃったわ、まったく。


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