カメカミ幸福論
「早かったじゃない!鞄おいたら台所手伝ってちょうだいね」
「・・・へーい」
私が逃げずに、しかも予想よりも早く来たことで、母親は機嫌を直したようだった。
「どうなの、最近は?何か変わったことはない?」
既に奥へ行きかけながら、母親が振り返ってついでのように聞く。
「・・・」
変わったこと・・・。
「睦?」
「・・・いや、特にはないわ」
ありすぎて、到底口には出来ないわ、お母さん。私は心の中でそう呟き、鞄を置くとすぐに台所へと向かった。
急なお知らせだったのはどうやら私と兄貴だけだったようで、実家には既に祖父母と父母と父の兄夫婦、その娘である私達の従妹、そしてそのダンナと子供達が集まっていた。人数が多くて、やることもそれなりにあるので、ダンのことを忘れていられた。それは大変有難かった。四方八方から飛んできた「いい人出来たの?」の質問を黙殺することも上手に出来たと思う。
主役である祖父に挨拶した時、病気でほとんど目が見えないはずの祖父が、ダンがいるほうをむいてじっと止まったのには驚いた。
・・・見えるの、じっちゃん?
「睦ちゃん」
「え、何?」
祖父がその皺皺の顔をほころばせる。
「チャンスだと思えば、大丈夫だからね」