カメカミ幸福論
・・・え?
小声の祖父の言葉の意味は判らなかった。だけど、ダンがふわふわと寄ってきて祖父の前に立ち、ニコニコと微笑んだのは判った。言葉のない会話をしているようだった。
「ダン?」
私は小声で神に話しかける。ところが、ダンはこちらをちらりとも見なかった。ただとても優しく微笑んで、ゆっくりと唇を動かしている。
そして祖父も。
「・・・おじいちゃん、見えてるの?」
どうしても聞きたくて、私は祖父の隣にしゃがみ込んだ。祖父はそれには答えなかったが、キラリと光る目で私を見て笑う。
―――――――――わあ。
私はそこから少し離れて、騒がしい家の中で別空間を作っている二人を眺めていた。
祖父はゆっくりと頷きながらダンを見上げている。ダンも私には見せたことがないような優しい微笑みで祖父を見詰めていた。
光の差し込む居間の片隅で、ダンの体が光っている。その下で微笑むおじいちゃん。私はなぜか、ちょっとばかり感動してしまった。
・・・もしかしたら、本当に神なのかもね、そう思って。
ダンは、本当に神なのかも・・・。
私は足音を消してそっと台所に戻った。
この世の中の、何か素晴らしく美しいものをみたような気がする。