カメカミ幸福論
夜になって、やっと兄貴がやってきた。
うちの兄は二つ上の現在31歳、独身。亀山陽介という名前で、のほほんとした外見で中身はマイ・ワールド・オンリーという鬱陶しい男だ。
学生時代からコンピューターに強く、そのオタク系の頭には私には判らない思考系統があるようで、外資系の企画会社でシステムの管理などをしているらしい。ガッツリした専門職で残業や休日出勤も多く、私とは違ってしっかりと働き、ちゃんと金も稼いでいる。ただし、その金は趣味であるコンピューターやどこかの国の音楽に消えていっている(はずだ。学生時代から趣味が変わっていなければ)。
よく似ていると幼少時から言われてきたが、仲はよくない。お互いに同じ部屋にいても無言で数時間過ごす兄妹だった。兄は常に何かの音楽をイヤホンで聴いているし、私は本を読んだりしているしで。
だから約1年ぶりに会った今日も、兄はチラリと私を見下ろしただけ。私はギロッと兄を見上げただけだった。
ヤツの耳にはまた、巨大なヘッドフォンがひっついている。あれで頭に直接音楽を注ぎ込んでいるわけだ。あそこまでくれば、もう立派なミュージック・ジャンキー。しかも歌うでもノるでもなく、ただ淡々と無言で聞く。一体どういう生物なのだ?なぜ難聴にならないのかが、兄に対して唯一沸き起こる疑問だった。
「・・・」
「・・・」
一瞬だけ視線を交差させただけで、ふん、とそっぽを向く。仲がよくない兄妹は、いてもいなくても同じなのだ。