カメカミ幸福論
豪勢な夕食が並べられ、皆で祖父に向かって乾杯する。祖父母、父母に叔父叔母と従妹一家は和やかに食事を楽しみ、私と兄貴は黙々と箸を動かし、お互いに自分の世界へ没頭していた。これもいつものこと。だけどそろそろ酒のまわった叔父たちが、絡みだす頃―――――・・・
「陽介君、そろそろ彼女でも出来た?もう今年で32歳じゃなかったっけ?結婚なんか、考えてないの?」
ほら、やっぱり。
机の向こう側をちらりと見て、陽介君と呼ばれた兄はまた自分の前に目を戻す。そして淡々と答えた。
「考えてない」
ガハハハハ!と何故か爆笑する叔父。それから隣の叔母が、今度は私に向かって言う。
「睦ちゃんは?ほら、女の子は出産のリミットもあるし、そろそろどこかいい家に嫁いでお父さんやお母さんに孫を抱かせてあげなさいよ」
・・・貰った言葉のいちいちがむかつくぜ。
私は一応にっこりと笑っておくか考えた。だけど、2秒で頭を振ってやめる。そして兄に従うことにした。つまり、真顔でこう言った。
「予定ないです」
それからテーブルの中央に並べられた缶ビールをひったくってあけ、ぐびぐびと飲み干す。兄貴は酒もタバコもやらない人間なのだ。私はその点で、大いにバカにしている。
酒は音楽に勝ると思うのだ、テンションを上げる、という意味で。勿論兄貴は山ほどの理屈でもってこの持論を破壊しようと頑張るだろうけど。