カメカミ幸福論
結局、私が家に帰るまで、ダンは姿を現さなかった。
目の腫れはどうしようもないが、鼻水だけでもとにかく収まった私は、部屋着に着替えてから小さな家中を見渡せる場所(つまりベッドの上)に立って、腰に両手を当てた。
「こぉら、神!いるなら姿を見せなさい!」
しーん。応答なしで、まるで自分がバカみたいに思える。だって、見た目一人しかいない部屋の中で、ベッドの上にふんぞり返って立って適当に目のビームを発射している私なのだ。
ちょっと恥かしいぜ。その照れを誤魔化すために、私はさらに声を尖らせる。
「あん?消えたの、バカ神!?じゃあこれで観察は終了ってことにするわよ。それならそれで、私は清々するけれど、とにかく覗き見のお礼くらい言ったらどうなのよ―――――――」
「終わりじゃない」
窓際に、するっとダンの姿が現れた。
お、いたのか、やっぱり。
私はそちらに体を向けて、じろじろとヤツを見回す。上から下まで丁寧~に。・・・くそ、綺麗な男だな、本当に。余計腹が立つわ、ほんと。
ダンは不機嫌そうだった。眉間にうっすらと皺を寄せて、何色とも表現出来ない美しい両目を細めている。
きっとこの姿をみて、涎垂らして喜ぶ女もいるはずだ。
だけど、私はそうならない。そりゃあ正直、やっぱり2秒くらいは見惚れてしまうけれども、そんなことは無視よ、無視。