カメカミ幸福論
この生活を続けるのに必要なスキルは「聞こえない耳を手に入れる」ことだけだ。
周囲の雑音を遮断し、陰口はスルーする。それさえ出来れば、このぬるま湯のような日々に浸かっていられる、それに気がついてしまったから、今更私はあくせく働けない。
期待されないという自由さは、思ったよりも心地よかった。
過去も現在も未来も持っている。ただし、希望という文字は霞んで見えない。だけどそれでもいいか、別に不幸ではない、それが今のあたしの心境だ。
「あなたは今幸せですか?」
例えば道でいきなり人にこう聞かれたって、あたしは困らない。さあ。そう言って通り過ぎるだろう。
幸せか不幸かだなんて、一体どうして気にするのだろうか?
人のことなんか、ほっとけっちゅーの。
他人と比べなければ芝生の青さにも気がつかない、人生とはそういうものなのだ。
私の狭い庭の芝生は栄養が足りず、確かに枯れかけているのかもしれない。
だけど、それでいいんだってば。
足るを知る――――――――自分は、それを地でいっている、そう思っていた。だけど実際のところ、それは違っているのかもしれない、そう思うような出来事が私の身に起こるのだ。
その時までは、勿論予想もつかなかったけれど。