カメカミ幸福論

「小暮課長!」

 美紀ちゃんがそう小さく叫んでグラスを置いた。彼女に片手を上げて挨拶したあと、相変わらず突っ立ったままの小暮は私を見下ろして聞く。

「カメ、どういうことなんだ?変な男に付きまとわれてるのか?」

「いやいやいやいや、ちょ~っと待って。ど、ど、どうして君がここに?同期会はどうしたの?」

 パッと腕時計を見る。時刻はまだ9時前だ。私達は定時で上がってすぐ来ているから3時間ほど飲んでいる計算になるが、営業課はもっと終わるのが遅いはず。今頃一番盛り上がってるはずでは?

 酔っ払った頭でもそこまで考えて私は身を捩ってヤツをガン見する。

「ちょっと顔は出したよ。で、すぐこっちに来た。ここにいるって聞いたからな」

「はっ!?誰に?」

 そこで私は思わずダンを目で探した。ヤツはテーブルの横あたりをふわふわ浮かびながら、私の視線に気付いて首を振っている。こいつじゃない?じゃあ――――――――――

「さてさて、会計しましょうね、亀山さん」

 鞄を持って美紀ちゃんが立ち上がる。

 まさか!

 私は半眼になって後輩を見上げた。すると髪を下ろしてお酒で頬を染めたラブリーな彼女が、その可憐さを裏切る企んだ微笑を見せたのだ。

 ――――――――――あんたかっ!?


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