素顔のキスは残業後に
そこで一度言葉を止めた五月さんは長く息を吐いてから、トーンの落ちた低い声で続けた。


「約束した待ち合わせの場所にも……来て貰えなかったんだって」


語り終えた五月さんの顔は酷く歪んでいて、それはきっと柏原さんの受けた傷の深さ。

そんな風に思った。



『先のことを考えて形にしたもの』


それが何を差すのかは明白で、心臓が鷲掴みされたように息苦しくなる。


この痛みは、同情? 
それもある。だけどそれ以外の――何かが、ある?


加速を遂げる鼓動に問い掛けると頭が痺れ出す。

止まらない反芻する想い。逃れるように固く閉じたまぶた。



「友花ちゃんって字が綺麗だよね?」


五月さんの柔らかい声が開かせてくれた。
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