素顔のキスは残業後に
「柏原さんの方が……優しいです」


鼓動の煩さに堪えきれずに声を絞り出すと、
「へぇー、なるほどな」なんて他人事のような呟きを漏らした彼は、何かに納得するように深く頷いていた。


「なるほどって、何がですか?」


カーオディオから流れる音楽に乗せて、鼻歌まで口ずさみ始める彼にそう問い返した。
けれど、静かな笑みを返されるだけで言葉はなかった。




そのまま車は入り組んだ住宅街を走り抜けて、勾配の急な坂道を駆け上がっていく。


都内から少し外れた場所なのかな?


遠くに見える高層ビル街にぼんやり目を奪われていると、微かな振動が足元から伝わった。
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