素顔のキスは残業後に
「着いた」


柏原さんはそう言ってエンジンを切った。

カチッと小さな音を響かせてシートベルトを外した彼に、
私も慌ててシートベルトを外そうとするけど、街灯もなく暗い車内のせいで苦戦してしまう。


苦戦すること数秒――



「不器用な女」


そんな呆れ返った声にぐっと息を詰まらせると、シートベルトのロックに伸びていた私の右腕が優しく掴まれた。

そのまま右肩を助手席の背もたれに押しつけられて、覆い被さるように二人の体が重なる。

彼の息遣いを感じるほどの距離。
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