素顔のキスは残業後に
いまさらながら、この人が好きだなぁと思う。

緩められた腕の中で幸せに浸っていると、私の首筋に顔を埋めた彼が小さく声にした。


「友花」


初めて呼ばれる自分の名前さえも愛おしく感じて、僅かに開いた隙間を埋めるように広い背中に腕を回した。






あれからしばらく抱き合って、


(だから、会社だっていうのにね……)


再び長く続いたキスの後で、柏原さんに聞かれた。



「今度の土曜日、どこか行く? 
――って、ダメだな。車がちょうど車検だった」


「あっ。私も、すみません。土曜はマンションを探しに行こうと思ってて」



このところの忙しさで頭から抜け落ちていたけど、マンションの更新が迫っていた。


引っ越しを考えたきっかけは、雅人のことだった。


消化できない想いを抱えたままあの街で過ごすことは、自分の為にもよくないと思ったから。

いまはその想いは綺麗になくなったけれど、一度引っ越しを考えたら新しい場所で生活したい気持ちが高まってしまった。

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