素顔のキスは残業後に
雅人と彼女が不動産会社にやって来たのは、彼女が住んでいるマンションを解約する為だったらしい。
手続きを手短に済ませたふたりが不動産会社を後にする。
私達はというと――――
ノリノリだった私の表情を見て契約書を用意してきた営業マンに首を横に振ると、
彼は肩を落としガッカリした顔になった。
期待させてしまって申し訳なかったなぁ。
でも柏原さんの助言通りに、もう少し考えてみることにした。
不動産会社の外に出ると小雨がパラついていて、暗い空を仰いだ柏原さんの瞳が不機嫌そうに細くなる。
「雨が降るのは夜遅くって言ってたのにな」
「あっ。私、折りたたみ傘ならありますよ」
「へぇー。桜井のくせに気が利くんだな」
「今日はやたら失礼ですよね」
「イチイチ気にすんな。明日もあさっても、こんなモンだ」
「……」