素顔のキスは残業後に
ホッと胸を撫で下ろすと、「これ、使えよ」と彼は柔らかい笑みを浮かべる。
差し出された厚みのある『それ』を受け取ると小さな呟きが落ちてきた。

「いきなり借金の申し込みって、変なのに捕まった…」

ボソッ聞こえた小さな呟きに。

いや。聞こえるようにはっきりと聞こえた、嫌味な声に。

いやいや。掌に置かれた、消費者金融のティッシュに!

クラッと目の前が真っ暗になる。

「ちょっ、借金って違います! そうじゃなくてっ。実は会社に財布忘れてきちゃって。このマンションのカードキーも入ってるから心配で、会社に取りに行きたかったんだけなんですっ」

いくら焦っていたとはいえ、私の言い方も悪かった。頼み方も間違っていた、と思う。

でも困ってる人を助ける気なんてサラサラなさそうなシラーッとした顔に、今日は厄日だって心底思った。


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