素顔のキスは残業後に
膝に落とした視線をゆっくりと引き上げる。

迷いを断ち切るように気持ちを落ち着かせてから、声にした。



「あのっ。由梨さんから話を聞いたって……」


自分でも情けないほどの掠れた声。

頭の隅に由梨さんの儚げな笑顔が浮かんで、胸が軋むような痛みを放つ。


私を見つめる柏原さんの瞳に一瞬影が射したのは、

きっと気のせいじゃない。


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