素顔のキスは残業後に
罰悪くて一度膝に落とした視線。
口角を引き上げてから続きを声にした。


「景色が綺麗ですよね。さすが柏原さん、いい場所知ってますね」


出来るだけ自然な笑顔を作ったつもり。

でも冷たい夜風が彼の髪を揺らすのと同時に、涼しげな瞳が私をまっすぐ捉えた。


「いまの、違うだろ。正しくは、『この場所、私以外の人と来たことがあるんですか?』だろ」


そこで言葉を止めた彼の顔が斜めに傾く。

絡み合った指先が解かれて、至近距離に顔を寄せられた。


「正解?」


あぁ、やっぱりだ。
誤魔化そうとしても簡単に見透かされてしまう。

敵わないよねと思い、「正解です」と弱々しく答える。


「柏原さんは、やっぱり何でもお見通しですよね。なんででしょう」


くだらないことを気にして馬鹿みたいって思われたよね。自分でも……そう思うし。

眼下に広がる景色を見つめるしかできないでいると、隣からとんでもない言葉を投げかけられた。
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