素顔のキスは残業後に
『うまいよ』


返された言葉に、ホッと胸を撫で下ろした。

屈託のない明るい笑顔に胸が弾んで、次はもっと頑張ろうって思ったことを思い出す。


いつだろう…

自分の心に問い掛ける。答えの代わりに胸が軋む音がした。


いつ、失くしてしまったんだろう。そんな新鮮な気持ち――…

どんなに考えても思い出せそうもなくて。ははっと自嘲気味に笑うことしか出来なかった。


「やっぱり料理上手な女性が、男の人は好きですよね」


唇から零れたのは、そんな情けない言葉。

返される言葉は、きっと――…


「それを言ったら俺の母親なんてまったく出来ねーし。まぁ。どへたくそだから、やらせないんだけど」

きっと想定内だった、優しい言葉。

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