素顔のキスは残業後に
「ありがとうっ…ございます」

震える喉からなんとか声を絞り出すと、テーブルの向う側で彼が手を付いて立ち上がった。

彼は椅子に座っている私の横に立ち、ふんっと鼻を鳴らしてから私の頭をコツンとこづいた。


「――別に。礼とかいらない。
普段の桜井を見て、そんな顔した桜井を見て。なんとかしてやりたいって思うんだったら。それがお前の評価だろ」


あぁ。ダメだ…

そんなこと言われたら、ずっと蓋をしていた想いが溢れそうになる。


だから小指の古傷にそっと視線を落とす。

この傷を負ったあの夜。私は、誓ったはずなのに――
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