【B】姫と王子の秘密な関係

19.ぬくもりに触れた時-音羽-


年が明けて一月が過ぎた、二月上旬。

桜川一丁目店での、
売上金盗難事件から三週間が過ぎようとしていた。


お父さんは三週間、桜川一丁目店に詰めて
自宅に帰るのは、私が桜川一丁目店に顔を出している時だけ。


「お父さん……」って顔を出すと、
「あぁ、音羽か。すまん少し着替えを取りに帰る」と行って
入れ替わりに店舗を後にする。


私が顔を出したときだけは、お風呂に入ろうとか、
この場所から離れようって思ってくれるんだって言う心が嬉しいのと同時に、
それだけじゃ、お父さん……何時まで立っても、眠れない。


何時か体を壊して倒れちゃうよって言う不安が私の中で常に付きまとう様になっていった。


信じていたスタッフに裏切られるって言うのは、
やっぱり凄く堪えたんだろうなーって思う。



だけど今も犯人は捕まってない。




もう、早く犯人を捕まえてお父さんを安心させてあげてよ。
警察は何してるのよ。




そんな怒りすら、
八つ当たりかもしれないけど感じてしまう。




お父さんが離れている間だけは、
私がしっかりと預からなきゃ。




そんな思いで、何とか日々を遣り繋げていく。




夜は夜で、お互いの店舗の情報を和羽と二人、電話で交代する。


ストアサブマネージャーの資格を取ってから、
和羽と一緒にシフトに入る機会はなくなってしまったけど
和羽は頼もしい親友であることは限らない。




「お疲れ様」

「そっちこそ、お疲れ。
 向こうはどう?」

「桜川はピリピリしてる。
 スタッフの雰囲気がピリピリして過ぎてるらしくて、
 今日も本部に態度が悪い、愛想がないってクレーム。

 小川がとんできて、雷落として帰っていったよ。
 だからお父さんが、また抱え込んじゃって」

「あららっ、悪循環だね。
 私も店長もこっちでずっと心配してたんだ。
 オーナーのこと。

 小母さんもさ、心労が募ってるみたいで
 最近、眠れない日が続いてるって言ってた。

 病院で睡眠導入剤貰ってるのよって話してくれたけど、
 音羽は知ってた?」


和羽からの情報は想像外。




お父さんだけじゃなくて、
お母さんも限界が近いのかもしれない。




私は娘として何をすればいんだろう。
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