【B】姫と王子の秘密な関係



「和羽、教えてくれて有難う。
 今からお母さんのところ行ってくるわ」


電話を切って、両親の寝室へと向かう。



寝室に二つ並べられたベッド。

そこにお父さんの姿は今日もない。




「どうしたの?音羽。

 明日も早いでしょ。
 温かくして眠るのよ」



そう言って、お母さんは布団の中に潜り込む。




「ねぇ、和羽に聞いた。
 睡眠導入剤使ってるって。

 眠れないの?」

「そうね。
 まだ犯人も捕まってない。

 だけど犯人が捕まったら捕まったで、
 お父さんもお母さんも苦しいわ。

 自分の店のスタッフがそんなことをしたなんて、
 誰も思いたくないでしょ?

 だけど、そう言うことが出来るのも内部の人じゃないと出来ないわ。

 売り上げのポーチを置いている位置は、
 スタッフは知っているかもしれないけど、金庫の暗証番号を知っている人間は限られるわ。

 強盗に入られて、レジのお金を奪われた盗難とは意味が違うのよ」



そうやってお母さんは自分の胸の内を、
隠さずに吐き出してくれた。



「そうだね……。
 二号店のお父さんの夢。

 凄く叶えてあげたかったけど、
 こんなことになるなら二号店なんか頑張らなかったら良かった。

 ずっと向坂店だけだったら、絶対にそんなことしないスタッフしかいないって
 信じられたのに」


私も気が付いたら、自分の本心を吐き出してた。



「人の心は難しいわね。

 音羽、お母さんはこっちのお店の店長だからここを離れることは出来ないの。
 お父さんをお願いね」 



そうやってお父さんのことを私に頼むお母さん。



「うん。
 向こうは任せといて。

 ちゃんと私がフォローするから」




そうやってお母さんと話し合って、それぞれの眠りについたけど
お父さんの限界は、とっくに越えて気力だけで支えてたんだ。
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