【B】姫と王子の秘密な関係




連絡先なんて過去の一度も、
俺自身から教えたことなんてない。



俺の携帯は、
一台しか持ち合わせてない。




携帯を持つのは、
早谷晃介ただ一人なのだから。




なのに俺は彼女にその連絡先を告げるのか?







戸惑う心は、俺自身に答えを告げることなく
彷徨わせる。






「晃介様、ホテルに到着しました」




自身の心に探りを入れ続ける時間の間に、
ホテルのロータリーへと車が吸い込まれていく。



後部座席が静かに開けられると、
コンチネンタルの責任者クラスの人間が、4名ほど俺を出迎える。




「晃介様、お待ちしておりました。
 先ほど、三条家の御令嬢もご到着なさいました」

「そうですか。
 会長は?」

「最上階の会長室にいらっしゃいます」




4人のホテル関係者に、付き従う様に近づかれたまま
俺はエレベータにのり、最上階へと向かう。



最上階では、俺が到着した途端に
振り袖姿のいかにも、
箱入り娘を想像させる少女が静かにお辞儀する。



今回のお見合いは、年上じゃないのか……。
だが年下すぎないか?





「三条様、車が渋滞にはまってしまって
 少し遅れてしまいました。

 お待たせしました、早谷晃介です」


そう言って、ゆっくりと少女の前でお辞儀をする。



「初めまして……、三条華純【さんじょう かすみ】です」


少女は、
戸惑いながら形式的に名前を告げた。


そこに姿を見せたのは、早谷の会長。



「おぉ、華純さんですなー。

 お父上の昭親【あきちか】さんには、恩がありましてな。

 こちらは、儂の孫の晃介。
 いかがですかな?」



いかがですかな?って
他にいいようはないのかよ。



心の中、内心頭をもたげながら
目の前の少女を見つめる。



目の前の彼女は、緊張しているのか
ガチガチに委縮していた。



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