【B】姫と王子の秘密な関係





ピピピ。





アラームが7時半を告げる。


携帯のアラームをとめて、膨大な資料とPCを落として
早谷のIDカードを金庫の中へと片付けると、
一人暮らしをしていたマンションから、ゆっくりとキャリーバッグを持って
エレベーターに乗り込んだ。


一人暮らしを始めていると言っても、
今俺が生活するこの場所すら、早谷の物件であることには変わりがない。



エレベーターが1階エントランスへと到着したと同時に、
俺の存在を知る、このマンションの責任者がゆっくりと俺の方へと近づいてきた。



「高崎さま、あちらに由毅様がお見えです」


あえて、晃介さまではなく【高崎】の姓を強調して告げる責任者は、
すぐに一礼してその場を去った。



必要以上に、俺にペコペコしないのも
早谷の姓から離れている俺自身の状況を知り得るからこそ。





「おはようございます。
 兄さん」




モーニングティーを口元に運びながら、
手元のノーパソから視線を向ける兄。



「おはよう、晃介。
 朝から押しかけてすまない。

 晃介、そのキャリー今から出掛けるのかい?」


その言葉に、俺は何も答えられず
口を継ぐんだ。



キャリ-の中身も、今から出掛ける場所も
早谷の人間である兄には知られたくない。


それを奪われてしまったら、
俺が息を吸える場所がなくなってしまうから。



「晃介、何も答えたくないなら言わなくていいよ。

 だけど俺は、晃介が何をしているのか知ってる。

 今の俺が居るポジションは、一族のものがどういう行動を取っているか、
 全ての状況を把握して、それぞれに通告する監査の部署だから」



兄が静かに告げたその言葉に、
俺は力なくその場で崩れ落ちた。



こんなにもあっけなく、
俺の自由は奪われてしまう。


それと同時に乙羽ちゃんの姿がゆっくりと脳裏に浮かんで
遠ざかっていく。




「……俺はどうしたらいんですか?」



絞り出すように告げた言葉。



「おいおいっ、ったく由毅も由毅だけど
 弟も弟だな。

 勝手に自分の未来を決めんじゃねぇ」


そう言って怒鳴るのは、
何度か屋敷の中で顔を合わせたことのある兄の親友。


確か……碕澄勇希【きすみ ゆうき】。



「勇希、短気はやめろって。
 晃介を追いつめるなって、ちゃんと僕が話すから」

「わかったよ。
 とっとと話して、外に連れてこい。

 会場までは、オレが送り届けてやる。

 だからとっとと、由毅はソイツと話をつけて
 仕事に戻れ。

 じゃないと、お前んとこのジイサンまた心労募らせるぞ」

「有難う」



兄さんと勇希さんは、二人で会話を終えると
エンドランスに残った兄さんは、俺の方にゆっくりと近づいてきた。
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