【B】姫と王子の秘密な関係

17.伝える気持ち -音羽-



父の夢だった2号店がオープンした。

家のある向坂店の店長をしている母とは、
一緒に仕事に入ることは少なくなったし、
母のサポートをずっとストアサブマネージャーとしてしてくれている和羽とも
シフトが被ることはなくなった。


だけど……、桜川一丁目店リニューアルオープン三日目。


新天地での業務に少し感覚が慣れて来た頃だった。


実家の店舗の時なんて、気にすることもなかった売上。

早朝の早い時間に店舗に顔を出して、
売上日報を作る作業を父や、店長に変わって代行する。

ストアサブマネージャーは、名の通り、店舗内の仕事においては
責任者クラスのエキスパートとして評価されているので、
こういった売上日報を作ることとか、経営の内部に至る資料まで目を通すことが出来る。




初日、多いのか少ないのかなんて私にはわからなかったけど、
総売上金額、170万円。

この中の40万円が料金収納の代行業務代だから、
実質は、130万ってところか……。



二日目は、150万円。
代行金額は、60万円。


世の中、20日を過ぎて給料日の人も多くなってきたから
多分、支払いの時期が増えてるんだ。



そして三日目の昨日、180万円。

金額としては嬉しいけど、
問題は180万のうちの90万が料金収納代。


実質、90万円。



僅か3日の間だけど、確実に下がっている売上金額。



こんなに数字になって、出てくるなんて思わなかった。


お父さんもお母さんも、
何時もこんな世界に身を置いて心身をすり減らしてるの?





「おはよう、音羽ちゃん」


「おはようございます。
 今日から4日目。

 昨日で本部社員の人たちは撤収でしたよね。
 どうして?」

「本部は昨日で撤収だけど、今日は俺はオフ。

 ちょっと気になって眠れなかったから、
 来てみました。

 日報作ったんだろ」



そう言うと、高崎さんは私の方にゆっくりと顔を近づけて日報に視線を向ける。


ただそれだけのことなのに、
高崎さんのそんな仕草に、キュンとしてしまうし……
高崎さんが会話するたびに、その息が私をくすぐる。



「桜川1丁目店。
 初日は頑張ったんだけどね。

 初日130万・2日110万・3日目90万。

 コンビニのオープン時に、
 100万越えだとその店のスタートは良しと考えられてるんだよ。

 そう言う意味では、桜川1丁目店は合格。

 2日目の売り上げは、初日の半額になることが多いけど
 ここは、110万。

 2日目も100万越え。

 3日目は、90万。 
 100万のラインは切ってしまったけど、それでもまだいい方だね。

 問題は今日の4日目の売り上げ。

 2日目の半額が通常の売り上げと言われている世界だけど、
 ここの店舗は、初日の半額には2日目はなっていない。

 そう言う理論でシュミレーションしていくと、
 2日目の65万の半額。

 約32万。

 1日、32万の中に日々の仕入れ代金・スタッフの給料・光熱代金そう言った金額が
 カバー出来てるかどうかが問題になる。

 そう言う意味では、通常が32万だと覚束ないかな。
 今以上に、売り場作りを徹底して、
 常にお客様に刺激をと溶けられる売り場にすることが必要ってことかな」



高崎さんは私の隣に座って、かみ砕いて事細かに説明してくれる。




「おはようございます。
 あれぇー、高崎マネージャーなんでこんなに早くいるんですか?」



新人として採用された高卒の女の子が、
事務所に入ってくる。
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