【B】姫と王子の秘密な関係



この子……苦手。
初日に私がフォローする羽目になった、豚まん落下事件の犯人でもあるこの子。



「おはよう。
 江島さん、身だしなみチェックの後、出勤して基本原則の唱和。

 遠野ストアマネージャー、お願いします」



って高崎さんっ!!
関わりたくないって思ってる傍から、高崎さんの鬼の発言。


無言で睨むと、
高崎さんは江島さんの後ろで声を殺して笑ってる。



ったく、何時かこの仕返ししてやるんだから。
溜息と共に椅子から立ち上がる。



「おはようこざいます。
 只今より朝の唱和を始めます。

 私に続いて声を出してください。

 いらっしゃいませ、おはようございます」


「いらっしゃいませ、おはようございます」

「いらっしゃいませ、こんにちは」

「いらっしゃいませ、こんにちは」



挨拶をしながら、お辞儀をしっかりとするのは忘れない。


江島さんと二人で始めた唱和も、朝のスタッフが次々と出社して
江島さんと声を重ねるようにオウム返しに復唱し始める。



接客七大用語と呼ばれる基本をお互いに声に出しあった後、
一斉にフレンドキッチンの基本原則を同時に唱和して、
今日の挨拶と目標を告げて、朝礼を終わらせる。



何時もはオウム返しで返す側だった私が、
いつの間にか、仕切る側にまわってる。



「今日も1日、お願いします」



そう言って、お辞儀をすると江島さん以外のスタッフは
私と高崎さんにお辞儀をして、事務所を出ていった。

だけど江島さんだけが、動こうとしない。



「江島さん?」

「あのさぁ、アナタオーナーのお嬢さんだからって
 いい気にならないで。

 高崎さんに指導されるんだったらまだしも、
 アンタみたいな人に言われるなんて気分悪いから。

 そんな幅きかせるようなマネしないで」



江島さんは吐き捨てるように私に告げると、
事務所を出ていった。



そんな一部始終を、
一番見られたくなかった高崎さんに見られたまま。





実家の下の店舗では、オーナーの娘だからって
パパの子供だからってそんな風に言われたことなんてなかった。

スタッフは小さい時からずっと見守ってくれた、
近所の人だったし、過ごしやすかった。


なのに……この場所は違う。


私……守られてたんだって思う心と、
江島さんにあそこまで言われて、悔しい気持ちと
あんな奴どうして採用したのか、パパを問い詰めたい気持ちと
複雑な心が絡み合って、涙が流れてくる。



高崎さんに背中を向けて、泣いてる私に背後から肩にトンっと
優しい手が添えられる。

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